【ωrωrd!】童話を抜けた先【短編集】 (ページ10)

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むすっ/ci ページ10

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恵まれた環境にいると思う。父も母も結婚を急かしたりなんかしないし、友人たちも恋愛を勧めてくるようなこともない。
でも知っている。口にしないだけだ。親戚の集まりでは酔った父が私が恋人を連れてくるのを待っていると言っていた。理解のある親だから押し付けてこないだけ。それがありがたくもあり、同時に少しだけ居心地が悪かった。

「結婚したい……せめて彼氏はほしい……」
「Aにも結婚願望とかあったんやな」
「別にいいじゃん……」

義務感なのだろうか。親孝行をしたい？いや、自分が救われたいだけだ。親を待たせている意識が芽吹いてしまうとなかなか消し去ることができない。

「でもさあ、こういうのって不誠実じゃん。好きか分かんないけど体裁のために付き合いたいって」
「親なんて事実さえあれば安心するやから気持ちとかどうでもよくない？」
「相手に失礼だって話をしてんの」

好きとか、よく分かんない。生まれてウン十年、こんな中学生みたいなことを口走ることになるとは思っていなかった。経験豊富らしいチーノに相談半分、愚痴半分で飲みに誘ったはいいが、適当に流されている気がする。

「学生時代の好きと大人の好きって価値が違くない？」
「いや知らんけど」
「昔からプレイボーイだもんね」
「関係ないやろ」

大人同士の付き合いって、結婚を見据えた話になるじゃん。ああ、こんなことになるなら大学時代の彼氏を逃がすんじゃなかった。
肘をついて、はあ、と顔を覆う。

「もう誰でもいいから好きになりたい……」
「誰でもええなら俺でもええやん」

覆っていた手を思わず離した。間抜けな声をあげる私と、口を尖らせて頬をつくチーノ。呆然とチーノを見つめていれば、少しだけ硬い声色で更に続ける。

「だから、誰でもええんやろ。なら俺じゃ駄目な理由ある？」
「い、や……ない、けど」

先程までガヤガヤと聞こえていた酔っぱらいの声が聞こえない。二人きりになってしまったかのような錯覚に陥る。意識をせずとも、チーノの声だけがはっきりと聞こえた。

「俺が好きや言うたら、信じてくれるんか」
「……本気？」
「まあ、彼氏ほしい言うてるお前に若干腹立つくらいには」

眼鏡越しに、大層目つきの悪い瞳と視線が合う。なるほど、私が誰かに取られるかもしれないのが嫌だったのか。不満をありありと訴えてくるチーノを見て、声が詰まった。

「まあ、えと、お友達から、ということで……」
「検討してくれるんやな」

逃がす気はないと言いたげに揚げ足を取ったチーノとの今後の付き合い方、募集しています。